大阪高等裁判所 昭和25年(う)1475号 判決
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(理由)
辯護人は被告人記帳の賣上帳の記載はほぼ正確であるが仕入帳の記載は不正確で信用できないと主張する。併し尾上富子の檢察官に對する第一回供述調書の記載によるとこれらの帳簿は賣上も買上も殆ど殘らず記帳されてあり收支の大きいものは被告人がつけ小さいものは使用人がつけたものであつて正確なものであることが推認できるのみならず商人が帳簿を備へ之に日々の取引その他財産に影響を及ぼすべき一切の事項を整然且明瞭に記載することを要求せられ(商法第三二條)その帳簿はその内容の眞正なることにつき信用を與えられ從つて裁判所の申立により又は職權を以て民事訴訟の當事者に商業帳簿の全部又は一部の提出を命ずることができ(商法第三五條民事訴訟法第三一二條)また刑事訴訟においても業務の通常の過程において作成された書面としてそれ自體證據能力を認められていること(刑事訴訟法第三二三條)などから考えると商人がその業務に關して作成した帳簿はその者のために利益にもまた不利益にも證據となるものであると解するを相當とする。これ恰も被告人が公判廷において任意に陳述すれば自已に不利益な證據ともなりまた利益な證據ともなるのと同樣である。即ち自已の自發的に作成した書面又は任意に陳述した供述の眞實であることにつき自ら責任を負擔すべきことは民刑の訴訟の別なく信義誠實の原則の要求するところに外ならない。從つて自已の作成した書面の證明力の不十分を主張するには單に被告人自身がその主張をするだけでは足らないのであつて、その主張を確認できる適法にして十分なる他の證據が存在しなければならない。然るに本件仕入帳の記載の信用力を覆するに足る確證は何も存しないのであるから論旨は採用できない。